コレクターのコラム - 美の演出

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杉浦康益・城康夫・岡鹿之助

杉浦康益

杉浦康益 イガグリ

城康夫

城康夫 栗

岡鹿之助

岡鹿之助 栗

静物画と言えば牧谿の干柿、1950年代の山口薫のすべての静物画、駒井哲郎の版画-静物Ⅱ、ド・スタ-ルのアスパラガス等がすぐに浮びます。中でも牧谿の干柿が脳裏にこびりついています。
万人が認める所と思います。周囲の煩雑さをすべて排除し、干柿を浮び上げています。対象を極度に単純化し、その物感をかもし出しています。いわば抽象に近い作品です。

静物画といってもその時代、国によって異なります。例えばバロック時代のオランダの煩雑さ、これに似たスペイン。同じ静物画でもフランスのものは静謐さがみられます。静物画のモチーフになる物は花、食物、日常生活にかかわる物等、各人があらかじめそれぞれの静物にその人なりのイメージをいだいています。
作り手も同じです。力量のある作り手は対象物の物感を見事にひき出します。写真のように綺麗だとか、逆にわざと画面を汚したものがみられる。作り手と同様に鑑賞側にも感性をみがく努力が必要と思います。

干柿、葉付のワサビ等五感を刺激します。他に純日本的なものに栗があげられます。食べる部分の栗、果皮におおわれた栗、無数の棘を伴ったイガ栗。それぞれの受ける印象は異なります。栗林でみかける青味がかった、又は褐色のイガ栗は幼少時のなつかしい原体験を思い起こさせます。今ここにイガ栗三点をあげます。

①杉浦康益氏の焼物。②城康夫氏のテンペラ画。③岡鹿之助の油彩

杉浦さんは川、山、広場に「陶石」の岩の群れを配し、又「陶石」を木立にしたてるスケールの大きい仕事をしています。陶芸家の仕事というより、彫刻家のようなセンスを具えた人です。2年程前、百貨店の画廊で、杉浦さんの「陶の博物誌」を見ました。
こういう側面ももたれているのだと知り、ほほえましくなりました。花、木の実、貝といったごく卑近な物を、その特徴を強調するため実物より大きく仕上げています。それらは精巧にして緻密で華やかな色彩を用いて植物の美しさや、生物の生命感を陶で再現しています。

妻が岡鹿之助の栗と並べたら面白いのではないかということで、図1のイガグリを手にしました。短時間でしたが、杉浦さんと話し合いの機会をもち有意義でした。

城康夫さんは風景と静物画をテンペラ技法で描いています。サクランボ、プラム、茗荷、花片栗など澄みきった発色効果とその構成が面白い。この清澄空間は日本的美意識に根ざしていると思います。図2は青いイガ栗です。褐色と青のイガ栗の趣は異なります。
城さんは青を用いて瑞々しさと清涼感を出したかったとおもいます。ここでふと不思議に思うのは、浜口陽三に青のイガ栗が何故ないのだろう。城さんと浜口に共通したモティーフはサクランボだけです。
二人がとりあげるモティーフの差異は、城さんの明るい清涼感と浜口の仄の暗い陰影を背景とした中にサクロンボ等を慈光として捉える、モノの存在感と思います。両者の精緻な構成から生まれる緊張感と抑制のきいた色彩は素晴らしい。
異なるジャンルの仕事ですが城さんは浜口を意識していると思います。

岡鹿之助といえば、ヨーロッパの古城、雪の発電所、岬の燈台といった風景画の他にパンジー静物画を思い起こします。絵のマティエールの拘り、新印象派の伝統のなかに身を置き、絵画空間に真摯にとりくんだ作家です。
結果窮屈で固いという一面もあります。他方作品の調和と静謐、堅固と安定、及び透明度の高さといったことがこの作家の特徴と思います。みるものをして魅了します。この作家ほど資質が作品に投影されているのも珍しい。例えば音楽に対する接し方も尋常ではない。
大好きなグレゴリ聖歌を聴くためだけに、現地の教会に足を運ぶ徹底さ、この種の好みは同時に美術にも反映している。生前の岡鹿之助は比較的購入しやすかった。没後値段が下降する作家が大半でした。私の好みの古城とかパンジーは没後高価になり断念しました。

その頃図3の栗にめぐりあい手にすることが出来ました。好みのモチーフと違ったこともあり、当時はいちまつの淋しさがありました。岡の資質からして色彩を制限しながら画面を構成的な方向に向かわせる必然性があります。それが褐色を基調とした廃虚や古城を生みました。
このイガ栗も褐色を背景にカチッとした堅固で落着いたものになっています。実物のイガ栗が岡鹿之助という人の手による創造物となりますと、実物以上にその物感を引き出しています。パンジーを除いた他の小品の静物画は極めて少ない。

生誕100年記念の岡鹿之助展の油彩120点中、花を除いた静物画は胡瓜と苺、干柿、アレキサンドリアの3点だけでしたが非常に新鮮に感じました。何年か前このイガ栗をある京都の老舗の和菓子屋さんがぜひにと、所望されたことがありました。正直悪い気がしませんでした。 焼物、テンペラ、油彩によるイガ栗をとり上げました。

(2003年10月S.T記)

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