「コロナウイルスの時代に思うこと」~鳴海伸一~
お正月気分も抜けつつある2020年1月初頭。どうやら正体不明のウイルスが蔓延しているとの報道が世に流れて、あっという間に日本、そして世界に拡大し我々の日常生活、喜びや楽しみ、笑顔を消し去り、そして世界で多くの職と生命を奪い、悲しみと恐怖ばかりが増幅されている現在。
その行き場のない気持ちをどうしていいかもわからず、先行きの見えない社会への不安と恐怖に怯える日々が続いています。
もう誰もが何時・何処で感染するかもわからず、すでに感染しているかもしれない。
「対策として、いまは風邪やインフルエンザと同じ対策で」、「あと2ヶ月で終息する」、「正しく怖がる事が大事」、「正しい情報を入手しましょう」、「マスクはあと2週間もすると流通する」、「マスクの効果は期待できない」、「致死率は低い」、「まだパンデミックではない」、「もう元の生活は戻ることはない」など公的世界機関からでさえも様々な情報で溢れて、未知なるウイルスに人類はもうなす術を失いかけている様子です。が、そんな中、医療崩壊を目前に過酷を極め、戦っている患者さんや医療従事者の皆さん、臨床医、関係者の努力に頭の上がらない思いでいっぱいです。
このウイルスが自然界からなのかはたまた良からぬ流出なのかこれから明らかになるでしょうが、全てはこの地球で起きていることであり、残念ながら私たちは向き合っていかなくてはならない事となってしまいました。
さて、僕は大学などで高尚な芸術学や美術学も学んでおらず、有名作家先生に師事したり画壇や所属肩書きを持たない私の作家デビューは、コンペティションや公募展で大賞を頂いたり、雑誌に取り上げられたり華々しく期待されたものではなく、コツコツとした画歴と、個展などで購入頂いた皆さまのありがたいご縁と応援、支援をいただいてのデビューでした。 雨の中、傘をさしながら片手に作品を持って、取扱って頂くのに画廊や企画ギャラリーを何件も歩いた事を今も懐かしさと共に忘れずに覚えています。 当時は若気の至りで捨て身の行動は、なんとか身体は持ち堪えたものの、心は見事にポッキリと折れていました。
しかしそんな中、コツコツとご縁がご縁を結び、将来性や可能性を考えてくださり、応援してくださる画廊さんやお客様も増え、いまの自分がいます。 本当に様々な方の支えとおかげで歩みを進ませて頂いている作家であります。
私の版画活動は自身の画力や努力だけではなく、その半分以上は支えて頂いていることを今までもこれからもずっと恩に想っており、その支えに甘んじることなく自らの歩みを進めてまいりました。
「メメント・モリ」や「朝には紅顔ありて、夕には白骨となれる身なり」という言葉があります。私は20才初頭から、悲観することを非難せず直視することにしています。すでに、このわずか数か月で様々なものを失いました。次々と人類の生命を奪い去るこの新型コロナウイルスが蔓延し、世界を恐怖に落とし入れている現在。次に自分が罹患しこの世を去らねばならない時が来た事を考えると真先に思えた事は「感謝」という言葉でした。 とにかく沢山の方々、出会い、家族や出来事に感謝を申しあげたい想いでいっぱいです。いつも本当にありがとうございます。もちろん失礼をしてしまったことや、迷惑をおかけした事も多く深くお詫びもうしあげます。
しかし、悲観を直視ばかりしてはいられません。溢れすぎた情報と混沌としたこの社会情勢の中、こんな時世になってしまったからこそ、信じる力が必要なのではないでしょうか。
まずは自分を少しでも信じ、生かされている時間を丁寧に過ごし、自分の時間と未来を信じる力とその必要性を再考しています。
好きな音楽を聴いてワクワクし、好きなモノに囲まれてドキドキできる。僕はそのような感覚で絵や写真を飾って落ち着く環境をつくる事によって、安寧で平和な心が戻り、そこから希望と勇気が湧き、また前に進む事ができます。
アトリエには明治・昭和の物故作家作品から、現代作家さんの布刷り作品まで本当に好きな作品をかけて、いつも安らぎと刺激と勇気をもらっています。 また、整然と並べた制作道具たちからも何か話しかけられているようで、欠かせない存在です。
この新型コロナウイルスという難局の時代を迎えてしまった今、一日も早いこのCOVID-19の終息を願いながら、皆さまから頂いたこれまでの御恩を未来につなぐべく、今は時を耐え忍び、心技を磨いて明日に備える時期であると心しています。
2020年5月8日
鳴海伸一