作家略歴

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渡辺信子

作品は木枠に綿布を張った立体です。木枠の厚みはおおむね5~7cmくらいに作られます。そして木枠は四角形、不定形などにかたちづくられ、そこに異なる色の綿布を強く張ることでなだらかなカーブ、ねじれ、窪みが生まれます。ひとつの作品は白と青、白と黄、赤とワインレッド等の色を隣接させることによって生まれます。二面の境界はぴったりと接していてより濃い色のせりあう際(きわ)がより薄い色の面に映り込むように見えます。
現代美術の中のシンプル・モダーン路線の最先端をいく渡辺信子の作品は、空間がゆったりとし、格調が高ければ高いほどその空間を引き立たせ作品もさらに光彩を放つという不思議さを持っています。

略歴

1948 東京都生まれ
1971 相愛女子大学音楽学部器楽学科ピアノ科卒業

受賞暦

1994 第47回芦屋市展 芦屋市立美術博物館 買上賞受賞
1997 ABC美術コンクール 優秀賞受賞
1999 第10回吉原治良賞美術コンクール展 大賞受賞

主な個展

1998 「渡辺信子展」(エルケ・ザンダ と共に)
 ケルン日本文化会館/ドイツ
1999 信濃橋画廊5/大阪
  「境界の向こう側」 ギャラリー KURANUKI/大阪
  ギャラリー・キキ・マイヤーハーン/デュッセルドルフ, ドイツ
  「布のかたちー張力のシュプール」 INAXギャラリー2/東京
2001 「布のかたち」 西宮市大谷記念美術館/西宮
2002 「表面の向こう側」
 ノマルエディション・プロジェクトスペース/大阪
  「布のいろGreen and Green - stripes」
 INAXギャラリー2/東京
2003 ギャラリーサン/ソウル, 韓国
  ギャラリー・キキ・マイヤーハーン/デュッセルドルフ, ドイツ
  「空間にふれる」アートコートギャラリー/大阪
2004 クムサンギャラリー/ソウル, 韓国
2005 「ミステリアスストライプ」信濃橋画廊5/大阪
2007 「A space into the color」信濃橋画廊5/大阪
  ギャラリー・キキ・マイヤーハーン/デュッセルドルフ, ドイツ

主なグループ展

1990 第1回大阪トリエンナーレ'90(マイドームおおさか/大阪)
1993 第4回大阪トリエンナーレ'93(マイドームおおさか/大阪)
1997 「芦屋市展ゆかりの作家達」(芦屋市立美術博物館/芦屋)
1998 第9回大阪トリエンナーレ1998-彫刻
 (マイドームおおさか/大阪)
2001 「SIX DIRECTIONS」(ヒルサイドフォーラム/東京)
  第10回国際現代造形コンクール 大阪トリエンナーレ2001
 (海岸通ギャラリーCASO/大阪)
2002 「アーティスト・イン・レジデンス」展
 (国際芸術センター青森/青森)
2003 「構成された布切れ」展(神戸ファッション美術館/神戸)
  「いととぬの」(群馬県立近代美術館/高崎)
2005 KIAF(ソウル, 韓国)
  兵庫国際絵画コンペティション(兵庫県立美術館/神戸)
2006 「彩りの部屋」(西宮市大谷記念美術館/西宮)
  「あしやにまつわる歴史と美術」(芦屋市立美術博物館/芦屋)
  「Gold Rush, Takuma +1 +1」
 (クムサンギャラリー/ヘイリ, 韓国)

パブリック
コレクション

芦屋市立美術博物館
大阪府立現代美術センター
ケルン日本文化会館
西宮市大谷記念美術館

「視線と曲線」

布を木枠に張った作品は、直ちにキャンバスを思い出させる。タブローの支持体としてのそれは、何らかのイメージを媒介することを前提としているが、渡辺信子の作るものはそれ自体で完結しているという意味で支持体ではない。渡辺の作品は素材である布を強調した作品である。布は柔らかく可変的であるが引っ張ることによってある種の硬さを得ることが出来る。渡辺の作品はその状態を固定化したものである。作品においては、引っ張られた布が木枠に固定されているので、常に緊張状態が保たれている。そして渡辺の作品は布を張る木枠が一辺欠けているために、欠落部分に布がなだらかな曲線を生み出す。この曲線から、布が全方向に引っ張られていることが伺える。この緊張状態が、一見柔らかな質感を持つ布の上に現れるために、渡辺の作品は、柔らかい/硬いという二項の間に存在する。

また、その曲線によって作品はわずかながら奥行きをも獲得する。この奥行き空間は浅く、作品はそれほど強い立体感を持たない。また作品のほとんどが壁に掛けられるために、平面作品のようにも見えるのだが、曲線でへこんだ部分のためにそう見ることにも違和感が残る。また、へこんだ部分はユニットが組み合わさった部分であるために、作品外の空間へ鑑賞者の意識が向かないように機能する。すなわち、鑑賞者の視線は曲線に引き込まれ、作品内に留まったままなのである。したがって、ミニマルアートは単純な形態ゆえに、客体(マイケル・フリード)として現実空間の中で鑑賞者に対峙していたが、一方で渡辺の作品はいくつかのユニットが組み合わさっただけの単純な形態にもかかわらず、客体性はないと言える。さらにユニット間の色の差異が境界を際立たせるため、この性質は補強されることになる。また異なるユニットを結合し、区分もする境界は、補色や同系色などの色彩の使い方によっても印象を変える。

平面作品のように見てしまうと、渡辺の作品にみられるのは単にプロポーションや色面、質感といった問題でしかないが、そこにわずかな空間性、曲線が加わるために、諸要素が境界に収束される。その意味で、境界こそが作品の中心といえるだろう。中心と周辺というミニマルアートには見られなかったヒエラルキー構造を持つことによって、作品は客体性を廃しながらも、シンプルな構造を保っていられるのである。

植松篤